Jon Sindreu

通説では、現在の株式市場の強気相場は人工知能(AI)に全面的に由来するとされている。しかし詳しく見れば、その主因は米国の財政支出にある。つまり投資家が得る利益が「大規模言語モデル(LLM)」ではなく「大規模赤字モデル」によるとすれば、この好況は米国政府の予算緊縮に対して脆弱(ぜいじゃく)なこと意味する。

6月25日に米商務省経済分析局(BEA)は、第1・四半期の経済成長率確定値を年率2.1%と発表し、改定値の1.6%から大幅に上方修正した。米国の非金融企業の純利益率は15.6%から15.8%に引き上げられ、再び過去最高水準に迫っている。企業の収益は、表向きにはハイパースケーラーと呼ばれる巨大テック企業がAIやデータセンターに巨額の資金を投じていることが原動力となっており、設備投資と知的財産への投資はそれぞれ15.8%と13.8%の増加になった。

これは、テック企業の膨大な資本支出が互いの利益を押し上げるという、いわゆる「支出のループ」に関する一般的な説を裏付けている。その点で、AIによる企業利益と株式市場、GDPの押し上げ効果は、AIの普及が鈍化すれば一気に崩壊するのではないかと一部の投資家が懸念するのは正当だ。

しかし収入や利益の循環自体に、本来疑わしい点はない。実際20世紀の経済学者ジェローム・レビーとミハウ・カレツキが指摘したように「ある人の所得は別の人の支出である」というのが常に成り立つ真理と言える。経済全体の利益を支える収入の大部分は賃金、設備投資、あるいは配当といった形で企業自身が支出した資金から得られる。このループの外から資金が流入する経路は、実質的に2つしかない。1つは輸出が輸入を上回る場合、もう1つは政府が税収以上に支出する場合で現在は、後者がその重責を担っている。

赤字支出、民間投資、家計貯蓄といった企業利益の全体水準を決定するさまざまな要因を分析できる米国の国民経済計算を見てみよう。Breakingviewsの分析によれば、現在の利益のうち民間セクターが生み出す部分はわずか3分の1に過ぎず、残りは連邦政府の支出に起因する。財政赤字は2024年以降縮小傾向にあり、利益成長のわずかな足かせとなっていたが、今年第1・四半期に再び拡大してGDP比6.4%に達した。

またAIへの旺盛な設備投資があるにもかかわらず、民間投資はGDP比で2.7%にとどまり、過去平均の3%を下回っている。理由の1つは、企業の純利益が表面上の生産高ではなく、増加傾向にある減価償却費を差し引いた後の金額に依存するためだ。もう1つは、ハイブリッド型労働の普及によりオフィス建設が急減したこともあり、ハイテクやグリーンエネルギー以外の分野で設備投資が振るわないことが挙げられる。

確かにAIによる生産性向上への期待がバリュエーションをさらに押し上げ、アニマルスピリット(野心的な意欲)や個人消費を刺激する可能性はある。それでもS&P総合500種の実績に基づく株価収益率(PER)が28倍と、24年後半とほぼ同水準にあることは注目に値する。つまり当時から指数が35%上昇しているのは、利益の成長によって完全に説明がつくということだ。

楽観的な見方をすれば、政府の赤字はITバブルの主な原動力だった投機的な設備投資よりも、耐久性のある市場の基盤になり得ると言える。実際、米政府は実質的に株式市場の下支えをしており、それを取り除く動機もほとんどない。だが悲観論に立つなら、財政赤字は不況や戦争の時期を除けば歴史的に例のない水準にあり、もしそれが持続不可能であると判明すれば、株式市場の好況も同様に終わる恐れが出てくる。

●背景となるニュース

*米商務省経済分析局(BEA)が6月25日に発表した2026年第1・四半期の実質国内総生産(GDP)確定値は、年率換算で前期比2.1%増となった。改定値の1.6%増から上方修正され、ロイターがまとめたエコノミスト予想(1.6%増で変わらず)も上回った。nL6N42X0X3

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)